Prokaryotic motility
微生物のユニークな運動とその生物物理学。
細菌や古細菌は、驚くほど多様な運動マシナリーで動きます。細菌べん毛や古細菌のアーケラムのような回転マシナリーもあれば、細胞を表面上で「歩かせる」滑走マシナリーもあります。いずれも化学反応のエネルギーを力学的な仕事に変換していますが、それぞれ独立に進化してきました。私は1つのマシナリー単位での動きを分解能高く捉え、それを背後の化学反応と結びつけることで、化学–力学カップリングがどのように実現されているのか、そしてこれらのマシナリーに共通する設計原理は何かを探求しています。
滑走マシナリー:単位ステップを捉える
Mycoplasma mobile は、ATPで駆動される数百本の「あし」で表面上を滑走します。私たちは、1つの滑走マシナリーの動きを高精度に追跡することで、単位ステップを検出しました。さらに、その3次元的な動きとストールフォースの発生を解析しました。
アーケラム:回転モーターが回る様子を見る

古細菌は、細菌べん毛とは進化的に無関係なATP駆動型の回転マシナリー「アーケラム」で泳ぎます。高度好塩性古細菌 Halobacterium salinarum を用いて、遊泳中の細胞でアーケラムの回転を直接観察し、その回転がステップ状に進むことを捉えました。モーターの機能と繊維の形態を同時に定量するクロスキモグラフ解析を開発するとともに、トルク計測から、ATP駆動型回転モーターに共通するモデルを提案しました。
参考文献 Nat Microbiol (2016), Biophys Physicobiol (2018), Commun Biol (2019)
ゴースト細胞:化学反応と力学的仕事を結びつける
運動を化学反応と直接結びつけるには、細胞内の組成を制御する必要があります。私たちは、細胞膜を透過化しても運動を続け、内部の環境を外から設定できる「ゴースト」を開発しました。M. mobile のゴーストでは、直進的な滑走運動を精密に読み出せる回転運動へと変換しました。
古細菌 Haloferax volcanii のゴーストでは、アーケラムが回転を続け、ATPに対する高い選択性とATP加水分解の負の協同性を示しました。1回転あたり少なくとも12分子のATPが加水分解されると見積もり、さらに応答制御因子CheYが反時計回りから時計回りへの回転の切り替えを促すことを示しました。
参考文献 Sci Rep (2018), PNAS (2020)
モーターから細胞のふるまいへ
モーターがどこに配置され、どう使われるかは、細胞全体の動き方を左右します。これまでに、好塩性古細菌における運動装置の配置、昆虫の腸内共生細菌がべん毛を細胞体に巻きつけて泳ぎ・滑走すること、大腸菌K-12の原株がrun-tumbleではなく前後進によって走化性を示すこと、そしてべん毛の多形が構造のある環境での遊泳に与える影響を調べてきました。
参考文献 mBio (2019), ISME J (2018), Sci Rep (2020), Biophys Physicobiol (2023)