研究の原点は、雪山に
幼い頃の私は、科学に特別な関心があったわけでもなく、成績も決して良いほうではありませんでした。そんな私が研究の道に進むきっかけとなったのは、大学4年次の卒業研究です。
卒業発表が差し迫る中、スキー場近くの宿舎で細菌の運動を解析していたとき、「止まっては進む」を繰り返す、まるで歩いているような動きを捉えました。その一歩一歩が、私には生命の鼓動のように見えました。興奮のあまり、隣にいた文系の友人に夢中で語ったことを、今でも鮮明に覚えています。
知らなかった世界を知り、その驚きを誰かと分かち合う。
その瞬間、私は「知ること」を通じて、生きている実感を得ました。これが、研究者としての私の原点です。
以来、微生物がどのように動き、環境を感じ、身を守るのか――その生命現象を支える分子のしくみを、物理学の視点から探究してきました。見たいものが見えなければ、測る技術をつくる。知りたいことがあれば、実験を組み立て、生命現象を再構成する。私にとって実験技術の開発は、未知の世界を知るための大切な手段です。
そして今、さまざまな人と研究を進めるなかで、もう一つの喜びを感じています。一人の小さな発見が、誰かとの対話によって深まり、新しい問いや発見へとつながっていくことです。
真理の探究は、孤独な旅ではありません。
異なる経験や価値観を持つ人々が集まり、驚きを共有し、ともに未知へ踏み出す。科学とは、そうした開かれた営みだと信じています。
私は、研究が特別な才能を持つ人だけのものであってほしくありません。かつて科学に関心のなかった私が一匹の細菌の動きに心を奪われたように、誰にでも世界の見え方が変わる瞬間があるはずです。だからこそ、精密計測と実験の自動化・自律化によって、熟練や手作業の壁を低くし、誰もが本質的な問いと発見に向き合える研究環境をつくりたいと考えています。
一歩踏み出す好奇心が、まだ誰も知らない世界を拓いていく。
あの日、山小屋で感じた胸の高鳴りを忘れずに、これからも生命の不思議を追い続けます。
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